終わりの見えないコロナ禍の影響で、2021年に続いて2022年も「八戸えんぶり」の中止が決まりました。今年、青森県では1月上旬から感染が急拡大し、1ヶ月以上にわたって歯止めがかからない状況が続いています。2年にも及ぶコロナ禍は、地域の人々が守り続けてきた伝統文化の継承にも暗い影を落としました。
八戸えんぶりは、30組ものえんぶり組が各地から集う、県南地方最大のえんぶり行事。えんぶり行事をめぐっては、長者山新羅神社が昨年10月の時点で神事を行わないことを決めていました。年が明けてからの感染拡大を受け、1月中旬には南部町剣吉の「南部地方えんぶり」がいち早く中止を決め、その後は「八戸えんぶり」の動向が注目されていました。
2022年の八戸えんぶりが中止に至るまで・・・
今年の八戸えんぶり中止に至るまでは、1月28日に40組ほどのえんぶり組で組織する「八戸地方えんぶり連合協議会」がそれぞれの組の意見を集約した上で、八戸えんぶりの「一斉摺り」への不参加を決定。その後、2月3日にえんぶり行事の運営組織である「八戸地方えんぶり保存振興会」が八戸えんぶりの全面中止を決めました。結論まで時間がかかったとはいえ、しっかりと合意形成を図った上で全面中止に至ったことに意味があると思います。
春の初めに豊作を祈る、農民の芸能。
えんぶりは、八戸藩の城下町の神事というルーツを持つ八戸三社大祭と違って、農民が旧暦の年の初めに田植えの真似事をして豊作を祈ったという土着の文化です。
旧暦の年の初めには、二十四節気の最初の節気「立春」があります。「立春」の前日の「節分」には、「邪気が起こりやすい」と言われているようです。人々はこの時期、豆まきで邪気を払い、翌日の「立春」で新しい一年を迎えていました。新しい一年を心機一転頑張ろう!ということなんでしょうね。
そしてえんぶりは、旧暦の小正月、2月15日あたりにその年の豊作を祈って田植えの真似事をする予祝芸だったそうです。「予祝(よしゅく)」は、簡単に言えば「前祝い」のこと。えんぶりでその年の豊作を前もってお祝いして、福を呼び込んだのでしょうね。
このようにして、農民たちは農閑期の2月にお祝い事をすることが多かったようです。寒さの厳しい立春や小正月の辺りは、一年の豊作を祈る時期だったのですね。
津軽にも春を呼んだ。
えんぶりは青森県南部地方から岩手県北部にかけての、主に旧八戸藩領に残る文化です。津軽地方にはありません。また、同じ南部でも盛岡市にはえんぶりの文化はありません。
でも、1700年代の江戸時代にこの地方を訪れた菅江真澄の紀行文には、田名部や津軽でもえんぶりを見たことが記されています。
江戸時代にえんぶりを見た菅江は、こう綴っています。
「えぶりすりというものが群れになってやってきた。笛鼓や囃子、鍬からというものに鳴子、馬の鳴輪、フカリなどをつないで、これをついて拍子をとり、うたをうたうと、本当に春が来たような心地がする。」
烏帽子を被った太夫によるダイナミックな舞や、儀式的な雰囲気を醸し出すお囃子、神様に扮した子供たちの祝福芸など、見所が盛りだくさんのえんぶり。沿道に詰めかけた人々は手拍子や拍手をして一緒に盛り上がり、時に感動の涙を流している人の姿もあります。江戸時代のえんぶりがどんなものだったのかは定かではありませんが、どうやら江戸時代の当時も、人々の心に春を呼ぶ芸能だったようです。
八戸だけに残ったのはなぜ?
では、昔は津軽や田名部など、今よりも広い範囲にえんぶりの文化があったのに、なぜ八戸一円だけに残ったのか・・・。
八戸はその昔、米を作るには適さない気候だったようです。
八戸は何度も不作に見舞われ、農民たちはその度に苦しみました。八戸の農民たちは厳しい気候条件の中で「米が無事に実るように」という願い続け、それが、えんぶりを高度な芸能に押し上げることにつながったのかもしれません。
コロナ禍がえんぶりに落とした影・・・・
令和になって早くも4年という月日が経ちましたが、えんぶりは、令和3年・4年と、2年続けて中止を強いられました。少子高齢化の現代、祭りの担い手である子供はますます貴重な存在になっていきます。さらにこのコロナ禍の影響による「2年間の空白期間」が与えた影響は、計り知れません。
寒さと困難の向こうにあるもの。
2月、「立春」を迎える時期とはいえ、八戸は一年で最も寒い時期を迎えます。
最高気温さえも氷点下の中、かじかむ手に息を吹きかけると、白い息が顔面を撫でるようにして上昇していく・・・そして手が少し温まる・・・・。この「寒さ」の中で「温かさ」を実感した瞬間、ふと、アタマのどこかでえんぶり囃子が鳴り始める。小気味良いリズムを刻む太鼓や手平鉦、甲高く響く笛に、南部八戸の人々は「あぁ、今年もえんぶりの時期が来た。」「春はもうすぐだ。」と実感します。
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